自身の左胸、心臓のところを、ティーシャツがしわしわになるくらい力強く握り締めて、彼が泣きながら優しく笑う。
「これって、恋じゃないの? 恋じゃなかったら、それじゃあ、なんなの……?」
苦しみながら、それでも愛おしいという温度で私を見つめる。こんなに純真に誰かを愛せるこの人の気持ちが何なのかなんて、私が教えて欲しい。
『いま目が合ったなーとか、手繋ぎたいなーとか、そういうのも多分、好きじゃん。よく分かんないけどドキドキした、とか、なんかふわふわしたぼやけてる気持ちも、「好き」に入ると思うんだ』
答えは簡単だ。随分と前に貰っていた。
『そういうのって、此花さんにとってはノーカン?』
そうだね、なんて、いま絢斗を前にしても私は言えるのか。なんてことない顔で、キスが恋の基準値だなんて。
「ううん……恋、だね」
私たちはずっと、違う温度で恋をしていた。たったそれだけなのに、たったそれだけのことが、こんなにままならなくて難しい。
好きだから、絢斗に触れたいと思う。キスをして、熱く触れて、もっと深く愛し合いたいと思う。
でも絢斗は、私のことが大好きだと笑いながら、私とキスはできないと言う。
どこまでも優しく、どこまでも残酷な人。
「ごめんね」



