何で、そんな顔をするの。


「意味分かんない……今更勝手なこと言わないでよ! 私は絶対幸せになれるって、なれなかったらするって、絢斗が言ったんじゃん!」


傲慢で自信家で突拍子のないままでいて欲しい。私だけを大切にするって、嘘でもいいから貫き通して欲しい。
現実はいつだって無情だ。永遠がないことなんて最初から分かっている。分かっていて、私は絢斗という理想郷を選んだの。

だったら、せめて夢くらいは見させて。


「何なのその顔、泣きたいのはこっちだよ! 絢斗のばか……!」


好きな人にキスをして、拒絶された時の気持ちが分かるのか。どれだけ惨めで心が壊れそうになるか分かるのか。
お願いだからそんな顔をしないで。傷ついた顔で、私を見ないでよ。


「嘘つき……私のこと、全然好きじゃないじゃん」

「――好きだよ!」


耳をつんざくような叫びが響き渡った。呼吸が聞こえる。わななく肩と吐き出した息が、彼の内で連動している。
叫びから遅れて、今にも零れ落ちそうな黒い目が、震えながら必死に私を見据えていた。


「僕は、奈々ちゃんが好きだよ」