沙織ちゃんのことはきっともう心配いらない。今の私たちはむしろ前よりも単純明快で、お互いが一緒にいることを望めば叶うはずだ。


「僕じゃ、奈々ちゃんを幸せにできない」


柔らかいときめきが死んでいく。
そんなに悲しいことを、はっきりと言わないで欲しかった。


「なん、で?」

「だって、」

「私のこと好きじゃなくなったから?」


違うよ、と絢斗が弱々しく首を振る。意味が分からなくて泣きたい。


「私も絢斗のこと好きだよ。好きって言ったよ。何でだめなの?」


堪らず立ち上がった。一歩、二歩、絢斗に近付く度、胸の奥が抉られるように悲しくなる。

少し前までの絢斗なら、僕も好きだよ、と言ってくれた。私の不安を包む言葉を惜しみなくくれた。
どうして好きって言ってくれないの。何を迷っているの。絢斗は一体、何に怯えているの。

苦しい。こんなに近くにいるのに、ちっとも伝わらない。言葉だけじゃ足りなくて歯痒い。


「奈々ちゃん――」


その先は聞きたくなかった。震える心臓を持て余したまま、絢斗の唇に自分のものを重ねる。

温いと感じたのは一瞬のことだった。
両肩を掴まれ、すぐに引き離される。思わず目を見開いた先、苦し気に顔を歪める絢斗がいた。


「何なの……」