助けを求められているような気がしてならなかった。助けてと、彼女の言葉の節々から発せられているような気がした。

沙織ちゃんが顔を上げ、唇を噛む。


「奈々ちゃんには、絢斗のことが何でも分かるのね」


己に課していた義務を放棄して安堵したような、脱力感を含んでいた。ある種、諦めにも似た声色だった。


「分からないです。絢斗が何を考えてるかなんて、分かったことは一度もないです」


いつも突拍子のないことを言って私を困らせる。見た目と反して頑固だし面倒だ。
そういう絢斗だったから、明けない夜から私を連れ出してくれたのだと思う。


「でも、私のことを考えてるんだっていうのは分かります。私も、絢斗のことばかり考えてるので」


それが私たちだった。周りのことが全然見えていなくて、二人で完結していて、その箱庭はたくさんの犠牲の上に成り立っている。

まだ諦めなくていいのだろうか。ずっと一緒にいる、その未来を選ぶために、絢斗はいま戦っているんだろうか。

沙織ちゃんがどこか眩しそうに目を細めた。


「……最初から、私がどうこうするような二人じゃなかったわね」


彼女の瞼がそのまま下りる。沙織ちゃんは私に頭を下げ、こう告げた。


「お願い。絢斗に、会って欲しいの」