予想外の単語に少なからず戸惑った。
テーブルの上、沙織ちゃんの手がぎゅっと握られている。


「あなたは一切退かなかった。誤魔化しもしなかった。私は狡くて卑怯だったのに……ばれなければそのまま隠すつもりだった」

「……絢斗への、気持ちをですか」


彼女が顎を引いて頷く。


「気持ち悪いって言われた時に、ショックだったの。奈々ちゃんに嫌われたことが、すごくショックだった」


言葉を失った。全く知らなかった、知る由もなかった告白を受けて、動揺を隠せない。


「私は母親失格。その通りよ。だって、ずっと、……絢斗のことを、愛せなかったから」

「え……?」

「本当は絢斗のことがずっと苦手だった。夫さえいれば良かったの。夫の子だから愛せるって思っていたのに、全然愛せなかった。最低でしょう?」


絢斗とは血がつながっていないのだと、彼女は言った。


「あなたに会ってから絢斗はすごくいい子になった。絢斗を動かすのは私の言葉じゃない。いつだってあなたの、奈々ちゃんの言葉よ。それが悔しかった。この子さえいなければって思った。私が絢斗を愛していないからだって思った。愛さなきゃって、思った」