ハロー、愛しのインスタントヒーロー




六月が終わって、夏がやって来た。季節が進もうと現状は何も変わらない。

その日も学校の後、バイト先へ足を運んだ。


「おー、おはよ」


従業員スペースで単語帳を開いていた井田くんが、私の気配に気が付いて顔を上げる。


「おはよう。……勉強、偉いね」

「はは、いやテスト近いからさ。家帰ってもどうせやらないし」


出勤まではまだ少し時間がある。テストが近いのはこちらも同じだ。何となく触発され、ノートを取り出した。
ぱらぱらとページをめくる音が場を支配していく。


「あのさ、答えたくなかったら無視してもいいんだけど」


井田くんが沈黙を破った。
つと視線を彼の方に向ければ、真正面から目が合う。


「誰かと付き合うってなったら、此花さんは何を決め手にするタイプ?」


は、と小さく声が出てしまった。慌てて唇を引き締め、相手の真意を確かめるべく瞳を覗き込む。


「……なに、急に」

「よく言うじゃん? やっぱり顔が大事とか、優しい人がいいとか、金銭感覚が合う人とか、その他諸々」


質問の意味を聞き返したわけではなかったのだけれど、伝わっていないようだ。
井田くんの辞書の中には、脈絡という文字がない。いつも唐突でストレートだった。


「んー、じゃあ聞き方変える。ああ、この人のこと好きだなーって思うのって、どういう時?」