井田くんの声で我に返った。拳を強く握りしめていたせいで、手の平に爪の跡が残っている。
「……うん。大丈夫」
チョコレートを口に放り込む。甘ったるくて少し嫌になった。
『ごめんね……』
絢斗を信じたかった。彼があそこまで苦しんでいるのはどうしてなのか、知りたかった。
だって七年間、めげずに手紙を送り続けてきた絢斗だ。意味もなく私を突き放せるはずがない。そこだけは自信を持って言える。
「私、帰るね」
今度は私が待つ番なのかもしれない。一か月経とうと、一年経とうと、――七年経とうと。
ボールペンをしまい、鞄を持ち上げた。
「あ、此花さん、これ忘れて……」
井田くんの呼びかけに振り返る。
彼が指したのは私の体操着で、それを凝視したまま固まる彼の様子に、思わず首を傾げた。
「…………“なな”?」
体操着に記入された私のフルネームを見て、井田くんが呟く。
さして珍しい名前でもないのに、何が引っ掛かったのだろうか。それとも、ただ読み上げただけか。
「あ、ごめん……最近よく聞く名前だったから気になっちゃって」
「え?」
「や、何でもない! こっちの話!」
明日からよろしく、と話を終わらせた彼に追求する気も失せ、賑やかな店を後にした。



