「もっ、もしもし?」


反射的に起き上がり、すぐに応答した。脳内で思い浮かべ続けていた相手からの着信だったからだ。


「……絢斗?」


電波の向こうがやけに静かで不安になる。
繋がっているか心配になって耳からスマホを離す直前、ようやく相手の空気が揺れた。


「ごめんね、こんな遅くに。奈々ちゃん、寝てた?」


深夜だからだろうか。普段より幾分落ち着いたトーンだった。こちらが喋る隙もないくらいのマシンガントークをかます絢斗はいないらしい。調子が狂ってしまう。


「いや……大丈夫。まだ寝てなかったよ」

「そっか」


近くの道路を車が走っていく音がする。夜の町の音だ。それが聞こえるほど穏やかで静かな会話をしている事実に、まだついていけていない。

元気がない、とか、そういう浅はかな表現は今の彼に似合わないと思った。


「奈々ちゃん。今から会いたいって言ったら、怒る?」


その声はどこまでも優しかった。同時にすごく苦しそうだった。
私の心臓を容易く握って離さない。絢斗は私を困らせる天才だ。


「怒らないよ」


今、泣きたいくらい嬉しいよ。自分でもこの感情がどこから湧いて生まれたのか分からない。


「じゃあ、そっちに行くね。ちょっと待ってて」