そう問うてきた沙織ちゃんの瞳の暗さを、僕は一生忘れないと思う。
喉に何かが詰まったように黙り込んでしまって、やっとの思いで言えたのは「どうして」の四文字だけだった。
「私、ずっと言ってたじゃない……奈々ちゃんには会いに行かないでって」
悲しげに呟く沙織ちゃんを見ていると、罪悪感に苛まれた。今にも泣きだしそうな沙織ちゃんを落ち着かせるために「そうだね」と頷いて、背中をさする。
でも、ここでも思ってしまった。僕が慰めたいのは、今もどこかで泣いているかもしれない奈々ちゃんなんだって。
奈々ちゃんに会いたい。でも奈々ちゃんに会いに行ったら沙織ちゃんが悲しむ。
好きだと言われるたびに怖くて沙織ちゃんを嫌いになってしまいそうだ。嫌いにはなりたくない。
毎晩考えるようになった。僕はどうしたらいいんだろう。
「――いや、絢斗はまず八方美人なとこ直した方がいいんじゃね?」
細かいことをぼやかして友達に相談してみると、呆気なく指摘された。
「はっぽう、びじん」
「おー。え、まさかお前、八方美人の意味知らないとかないよな」
「知ってるよ」



