ハロー、愛しのインスタントヒーロー



沙織ちゃんの目を見ればそんなのは嘘だって分かる。僕のことなんてこれっぽっちも好きじゃない。僕のことが好き、僕が好き、自分に言い聞かせるように繰り返すだけで、本当は違うんだって知ってる。

だけれど、高校生になってから沙織ちゃんの「好き」が少しずつ本当になっていくのを感じた。嬉しかった。嬉しいはずだった。


「絢斗、好きよ」


最初に覚えた違和感が膨らんでいく。日ごとに増して、僕は沙織ちゃんの「好き」が怖くなった。
それと同時に、ずっと心の中に閉じ込めていた“ななちゃん”に無性に会いたくて会いたくてたまらなくなった。

沙織ちゃんの言うことを守らないといけないと思っていた。僕のことを好きになって欲しかった。ちゃんといい子でいなきゃと思った。
でも沙織ちゃんの「好き」を手に入れてしまったら、僕が欲しかったのはこれじゃないと思った。どうして今まで黙って言いつけを守っていたんだろうと思ってしまった。


「僕、奈々ちゃんに会いに行くよ」


ようやくそう言えたのは、高校一年生の冬だった。寒い日に一人で膝を抱える奈々ちゃんを思い出して、僕はいてもたってもいられなくなった。


「……私のこと見捨てるの?」