驚き、嬉しさ、焦燥、照れ、憂い。順番に押し寄せてきた後、全部がぐちゃぐちゃになって内側で戦争を始める。
結局自分の感情すら分からないのに、絢斗の耳が少しだけ赤くなっていることに気が付いてしまって、胸が苦しくなった。
愛しい――それ以上の想いを持ったら、爆弾を抱えて生きていかなければならない。
と、不意に玄関の方から物音がした。まずいと思ったのが先か、ドアが開いたのが先か。
「…………奈々、あんた何度言えば分かるの」
帰宅した母が、私と絢斗の顔を見やった後に吐き捨てる。そのまま何事もなかったかのように荷物を置いて洗面所へ向かうので、拍子抜けした。
「あの、奈々ちゃんのお母さん!」
ベッドから降りた絢斗が母を呼び止める。
私としては、一体何を言い出すのだろう、と気が気じゃない。
「お邪魔してます! 僕、絢斗です! 覚えてますか?」
母が振り返ると、絢斗は慌てた様子で服の皴を伸ばしたり髪の毛を整えたりし始めた。いくら直したところで寝起きは寝起きである。
「あー……まあ、うん。覚えてるよ。そう……絢斗くん、ね」
歯切れ悪く頷いた母は、つとこちらに視線を投げて首を傾げた。
「で? あんたたち、そういう仲なの?」



