ハロー、愛しのインスタントヒーロー



それでも私は平気で頷いて絢斗の背中に腕を回す。

本当は、痛いほど強く抱き締められた時の喜びを忘れられない。
今は優しく包んでくれる腕があるだけだ。けれど、布越しに伝う温もりにひどく安心する。

心臓の音を聞いて、呼吸に合わせて膨らむ肺の動きを感じて、それが二人分あると知って、私は一人じゃないと思える。

絢斗がぬるま湯のような力加減だから、試しに私が思い切り、ぎゅう、と抱きついてみる。


「ど、どうしたの?」

「…………何でもない」


同じ強さで抱き締め返して欲しい、とまではさすがに言えなかった。
急に恥ずかしくなって顔を絢斗の胸元に埋めれば、突然彼の体が振動する。


「えへへ」


どうやら笑っているようだ。こんな時に呑気なものである。

文句の一つでも言ってやろうと顔を上げた途端、絢斗がそのまま愉快そうに告げた。


「奈々ちゃん、かわいい」


視線が交わう。彼の大きな瞳が細められて、柔らかいものを撫でる時のような色を宿している。

機嫌を取るためではなく、自然と零れてしまった音。それくらい分かる。
分かるけれど、そんな風に言われたことなんてほとんどないから戸惑った。こんなに綺麗にラッピングされた「かわいい」を、私は受け取ったことがない。


「なに、言ってんの……」