ハロー、愛しのインスタントヒーロー



小学生の時のことを指しているのかとも思ったけれど、そんな単純なことではない。今まさに私と二人で一緒にいる、そのこと自体がルール違反だから。

――“もういいんだ”。
それの意味するところは、彼がこの先、沙織ちゃんではなくて私を選び続けていくと決めた覚悟だ。


「……分かった。じゃあシャワー浴びてくるから、ちょっと待ってて」

「うん!」


元気な返事を背に、浴室へ向かう。
今までの何も知らないで悲劇を嘆いているだけの私だったら、絢斗のそんな声さえ鬱陶しく思っていたに違いない。能天気でいいね、という皮肉付きで。

絢斗は泣き虫で気弱そうで――そんなの、最初から私の勝手な願望だったのかもしれない。

絢斗は強い。泣いたから弱いとか、一度転んだらそこでもう終わりとか、そういう次元の話ではないのだ。
泣いても転んでもいい。ただそこで諦めなければそれでいい。何度でも立ち上がって、繰り返し笑う強さが絢斗にはある。

体の汚れを洗い流したら、曇っていた気持ちも少しだけましになった。


「奈々ちゃん、僕が髪乾かしてあげよっか?」


リビングに戻ると、絢斗がそう提案してくる。


「うん。やって」