ハロー、愛しのインスタントヒーロー



いつの間に駅に戻ってきたのだろう。ろくに頭も回らず、考えなしにのっそりと歩いていたら広場についた。
空はとっくに夜の気配をまとっている。風が私の髪をさらって、その毛先は夜空に溶けるように黒い。

少し前までここにいた女子高生たちの姿はなく、代わりにサラリーマンが頻繁に現れては街の飲み屋に消えていった。


『俺が稼いだ金をよその男に使う女だぞ! こっちが苦労して働いたっていうのに、それをどうして浮気相手なんかに……』


本当なのかどうか。真実を知るなら、母に直接尋ねるしか術はない。――でももし、本当だったら?
母ならやりかねないな、と思っている自分がいる。父が誇張しているだけだ、と思いたい自分もいる。

何を信じればいい。考えることが多すぎて疲れた。脳みそは随分前から音を上げている。


『あいつからは離れなさい。そうしないと、お前が幸せになれない』


じゃあ私はまた一人になるの? そもそも幸せってなに? 今までずっと放っておいたくせに、最後の最後で私の幸せなんて願わないでよ。


「……分かんない……」


全部投げ出して喚きたい。楽しいこと、嬉しいこと、ラクなことだけして生きていたい。そうしないと今までの私の人生、つりあい取れないじゃんか。

ブレザーの内側でスマホが振動した。確認してみれば、少し前に一度だけ関係を持った男子からの連絡でげんなりする。


『奈々ちゃん。僕、もうどこにも行かないよ』