ハロー、愛しのインスタントヒーロー



横井の表札がかかったドアから、女性が顔を出した。その後ろに小さい女の子を見つけて、絶句する。


「ああ……すまない。大丈夫だよ」


父がその二人に近付き、優しいトーンで宥める。

まさか――いや、どう考えても父の新しい家族だ。ものすごく美人というわけではなけれど、優しそうな人。そして純朴な少女。
温かくて和やかな空気。私たちにはなかった空気。これが正しい家族の在り方なのだと見せつけられているような。

もう心臓の耐久度はゼロに等しかった。ヒビが入って割れて壊れて、上から何度も踏みつけられて粉々になっている。

父が少女の頭をそっと撫でる。慈しみ、大切な宝物に触れる時の仕草。

やめて。それは私が欲しかったものだ。ずっと願って祈って、サンタさんにまで頼んでも、手に入らなかったものだ。

苦しい。今すぐ逃げ出したいのに、足が竦んで言うことを聞いてくれない。もう見たくない。辛い。悲しい、のに。


「――奈々」


妻と子を家の中に戻し、ドアを閉める間際で彼が呼んだ。


「あいつからは離れなさい。そうしないと、お前が幸せになれない」


それが、父が父として私に残した最後の忠告であり、餞別であった。