信号を三つ越えただろうか。
前を行くスーツ姿の彼が角を曲がる度、街灯の間隔が広くなり、少しずつ道が暗くなっていく。
更に角をもう一度曲がったところで、突然父が歩みを止めた。
咄嗟に反応できず、慌ててこちらも立ち止まった拍子に、思い切り足音を立ててしまう。
「誰だ」
前を向いたまま、父は端的に、鋭く問うてきた。
胸の奥がずっと苦しい。広場でその姿を見つけてから、自分がちゃんと息を吸えているのかも分からない。
はくはくと、金魚のように拙く唇を動かす。
「お父さん……」
言えた。やっと呼べた。安堵と悲しさで押し潰されそうになる。
こっちを向いて欲しい。どんな感情でもいいから、私を見て気持ちの針を振れさせて欲しい。
「お前、」
私の願いが通じたのか、父が振り返った。息を呑んだ気配がする。
「……もしかして、奈々か」
ぎこちなく頷けば、相手は黙り込んだ。
約十年ぶりの再会は、突拍子もなく、雰囲気の欠片もない路地にて。私たちにはぴったりだと思う。日の当たる明るい場所で会う勇気など、きっと微塵もなかった。
「後つけたりしてごめんなさい。電話も、急にかけて――」
「金なら渡す気ないからな」



