その先は聞く勇気がなかった。急いでトイレにこもって、頭を振る。
本当はずっと分かっていたんじゃないの? 沙織ちゃんが私のことを好きじゃないって。向けられる視線に居心地の悪さを感じていたって。
でも、私にとっては絢斗が一番大切だ。ずっと一緒にいたのに、今更離れることなんてできない。絢斗だってそのはず。
そうだよね?
「ななちゃん。僕、引っ越さなきゃいけない」
なのに、絢斗は突然そう言った。別れる時、泣きもしなかった。
「ごめんね、ななちゃん」
分からないよ。絢斗は私のことが大事じゃないの? 私より、沙織ちゃんの言いつけの方が大事?
どうして? 今までずっと、ルールを破っても私の隣にいてくれたのに。
「ばいばい。あやちゃん」
遠ざかっていく背中に、必死に涙を拭いながら手を振った。
冬が嫌いだった。父が出て行った日を思い出すから。
その日、ただでさえ嫌いだった冬が、絢斗のせいで、絢斗がいなくなったせいで、大嫌いになった。
冷たいのも、寒いのも苦手だ。温もりが恋しい。なるべく手軽なものが良い。
大事にしすぎると手放す時に苦しいし、そういうものに限って私を大事にはしてくれない。
インスタントな関係は、そんな私に好都合だった。



