ハロー、愛しのインスタントヒーロー



小学四年生の夏休み、絢斗の家で宿題をして、二人揃って寝てしまった時があった。
先に目が覚めた私はトイレに行こうと思い、一階に下りたのだ。リビングには沙織ちゃんと絢斗のお父さんがいて、話し声が聞こえてきていた。


「絢斗が中学に上がるタイミングでもいいんじゃないのか? 職場は確かにちょっと遠くなるけど、通えない距離じゃないし……」

「どうせ引っ越すなら早い方がいいわよ。ね、そうしましょう」


断片的に会話を拾っただけということもあって、その時は内容をよく理解できていなかった。起き抜けで頭が回っていなかったというのもあるかもしれない。

でも、沙織ちゃんの神妙な声色はとても印象深かった。


「私、聞いたのよ。奈々ちゃんのお母さん、いつも朝方に帰ってくるって。ゴミ出しに行った時に、男の人と歩いてるところも見かけて……それってつまり、そういうお仕事をしてるってことでしょう?」


心臓がずっとざわついている。耳を塞いでしまいたいのに、腕が上がらない。


「正直、もう関わりすぎない方がいいと思うの。絢斗にも何か影響を与えちゃうんじゃないかって――」