健康に悪い。食べちゃだめ。
そのフレーズが脳内でこだまする。強めの口調で絢斗に何かを言い諭している沙織ちゃんを眺めながら、私は少なからずショックを受けていた。
母との思い出が詰まっている食べ物だし、それを絢斗と食べたことも、私の中では既に一つの思い出になっている。
三分という短い時間をわくわくしながら待つ空気感。湯気と一緒に吸い込むしょっぱい香り。あんなに簡単に作れて美味しいのに、何がだめなのだろう。
カップラーメンだけではなくて、ポテトチップスなども沙織ちゃんからすると「だめ」らしい。
それ以降、絢斗が私の家に来ることはなくなってしまった。私が家にこもって泣いている時は、内緒で絢斗が来てくれたこともあったけれど。
でも、沙織ちゃんにはバレていたんじゃないかと思う。絢斗が嘘をつけない性格だというのは大前提として、沙織ちゃんの目は、いつも私たちの間にあるものを見透かすように光っていた。
私の家には行かない。インスタント食品は食べない。
そう言われていても、絢斗は結局私には甘いから、クリスマスの日は私のそばから離れなかったし、沙織ちゃんの言いつけを破ったことは他にもいっぱいあったはずだ。
絢斗は絶対に私を優先する。他の何より、誰より。
「ねえ、引っ越しましょうよ。その方がいいわ」



