「おはよう」

 朝、駿佑が給湯室の前を通ると、そう呼びかけてくる声がした。

 ちょっと戻り、中を覗くと、雁夜が茶色いカップを手に立っていた。

「なにやってんだ?
 こんなところで」

「いや~、昨日、うっかりお腹出して寝ちゃってさ。
 冷えて調子が悪いから、サプリ飲んでたんだよ」

 ははは、と雁夜は笑う。

 お腹出して寝ちゃってって子どもか。

 デキるイケメンで、温厚な雁夜だが、ちょっぴり天然なところもあり。

 そういうところが女子に人気なのだと、綿貫が言っていた。

「そうか。
 また弁当でも食べてるのかと思った」

「ああ、白雪さんのお弁当ね」
と雁夜は笑う。

 あのとき、ちょっぴり分けてもらった万千湖の卵焼き。

 意外にもうまかった。

 っていうか、仮にも見合い相手の俺より先に、通りすがりの雁夜の方が万千湖に弁当もらってるのおかしくないか?
と思ったとき、雁夜が言った。

「おいしかったよね、あの弁当。
 たまに食べたくなってさ。

 自分で買いに行っちゃったよ、冷凍食品」

 ……確かに冷凍食品まみれだったな。

 今、雁夜が何故、先に、と思ったばかりだが。

 なんとなく、なんかすまん……と謝りたくなる。