OL 万千湖さんのささやかなる野望

 駿佑は後部座席のドアを開けながら、女は苦手だが、こいつといると楽だな、と思っていた。

 さっき、古書店にいたとき。
 白雪は下にいて、俺は階段の途中にいて。

 それぞれが好きなことをしていた。

 まだ出会ったばかりの間柄なのに。

 そんな風に気を使わなくていい感じが落ち着くというか。

 ……まあ、なんだかよくわからない得体の知れない女ではあるんだが、と回転寿司で謎の男と会って、珍しく青ざめていた万千湖を思い出す。

 駿佑が車からカチョウをとり、万千湖に渡すと、万千湖はシラユキに別れの挨拶をしたあとで、紙袋からカチョウの頭を少し出した。

 白い袋からカチョウの目までが覗いている。

 ……なにか得体の知れない生物が、湖面から浮いてきたみたいで怖いんだが。

 そんな風にカチョウをこちらに見せ、万千湖は自分とカチョウとで頭を下げてきた。

「ありがとうございました、課長。
 ……そういえば、デートの場所も日時も決めてませんが」

「あとで電話ででも打ち合わせよう」

 じゃあ、最初からそうすればよかったんでは、とはどちらも突っ込まなかった。