夕暮れの光に染まる街を万千湖は駿佑の車で古書店に向かっていた。
「駐車場が狭いんですよね、あそこ。
二、三台しか止められないんで、この間も……」
と万千湖が言いかけたとき、いきなり前の車がスピードをガクンと落とし、遅れてウインカーを出してきた。
急に曲がることにしたようだ。
駿佑が慌てて急ブレーキを踏むと、後部座席からペンギンの入った大きな白い紙袋が飛んできた。
フロントガラスに激突し、駿佑の膝の上に転がり落ちる。
「カチョーッ!」
と万千湖は悲鳴を上げて、ペンギン入りの紙袋を拾い上げた。
「その名で呼ぶのやめろ……」
と言った駿佑の視界に、黄色い冠羽が入ったようだ。
「っていうか、それ、シラユキだろ」
あ、ほんとだ、と万千湖は中を確かめたあとで、カチョウが心配になる。
「カチョウは……」
振り返ると、シラユキより大きなカチョウは倒れた紙袋から飛び出して、後部座席の下に落ちていた。
サイズ的に、後部座席の足元にぴったりはまっているカチョウは、つぶらな瞳でこちらを見ている。
「カチョウ、しっかりしてください」
と万千湖は手を伸ばしてカチョウを拾い、汚れを落とすように軽くはたいてやった。



