OL 万千湖さんのささやかなる野望




 そのあと、万千湖たちは、また建物の中に入り、薄暗い場所にある巨大水槽を見上げていた。

 大きなサメと小魚たちが泳いでいる。

 雄大だな~と眺めながら万千湖は言った。

「こういうのって、突然、サメが正気に戻って襲いかかってきたりしないんですかね?」

「小魚たちにか?」

「いえ、我々にですよ」

 万千湖の頭の中では、額に十字の傷のある巨大ザメがいきなり野生にかえり、分厚いアクリルガラスに何度も体当たりして、割ろうとしていた。

「……ないんじゃないか?」

「そうですか。
 よかったです」

 ふわふわ浮かぶイルカのバルーンやペンギンのお散歩バルーンを持った子どもたちが、きゃっきゃと目の前を横切っていく。

 巨大ザメの前を通るその子たちを見ながら、
「のどかですね~」
と万千湖は微笑んだが、駿佑は、

「俺はお前のせいで、全然のどかでなくなったが……」
とサメと子どもたちを交互に見ながら青ざめていた。