OL 万千湖さんのささやかなる野望

 


 帰りの車で駿佑が訊いてきた。

「ほんとうに指輪、もうひとつ買わなくていいのか?」

「はい。
 この指輪、課長と買いに行ったの、いい思い出なんで。

 ずっとこれ、はめてたいです」

 万千湖は可愛いハートがティアラに見える指輪を眺める。

 夜の街の光に指輪の石が(きら)めいていた。

 すると、信号は赤なのに前を向いたままの駿佑が言ってきた。

「だから、もう一個買ってやろうと言っている。
 そしたら……その指輪を二人で買いに行った思い出も、お前の指に、はまるだろ?」

 思い出のつまった指輪をひとつずつ。

 何故か、付き合ってもないのに買ってもらった指輪と。

 婚約指輪と。

 結婚指輪と。

 二人の歴史と思い出を重ねるように――。

「お前の指全部に、俺との思い出の詰まった指輪をはめたい」

「……じゃあ、やっぱり、アラブの王様になるしかないですね」

 万千湖は駿佑に向かい、微笑んでみせた。

 それに引かれたように、こちらを向いた駿佑と視線がぶつかる。

 駿佑の顔が近づいた、と思ったとき、信号が青になった。