OL 万千湖さんのささやかなる野望

 雁夜が焦ったように言ってきた。

「さっき、マチカを名前で呼べないって悩んでなかった?
 なんで、名前呼べない人がプロポーズできるのっ?」

 駿佑は書類から顔を上げ、
「プロポーズするとき、名字で呼びかけてプロポーズしてはいけない決まりでもあるのか」
と言う。

「さっきからずっと迷ってたんだ」

「プロポーズするかどうか?」

「いや、保険」

 ……保険? と二人が訊き返してくる。

「白雪が六万の車を買いたいと言うんだ。
 そんなすぐ車検が切れそうな車を買うより。

 運転したいのなら、俺の車を貸してやるのにと思ったんだが。
 今の保険では白雪は乗れないんだ」

 本人限定になってるからな、と駿佑は言った。

「いろいろ悩んだ結果。
 白雪と結婚して、本人・配偶者限定にするのが一番いいという結論にたどり着いた」

 そんなことでかっ、と二人は言うが。

 単に、どうしても、万千湖と呼べないと思い詰めていたところに、保険のことも重なって。

 脳の容量を超えたからだった。