OL 万千湖さんのささやかなる野望

「歩いてくればよかったですね」

「ん?」

「そしたら、課長呑めたのに。
 焼肉には、やっぱりよく冷えたビールですよね」

 お前、今、焼肉には米って言ったぞ、と思いながら、駿佑は、
「お前呑めよ」
と言ったが、万千湖は、いえいえ、と遠慮する。

「この店、美味しいですね。
 家の近くにあったらいいのに。

 そしたら、歩いて呑みにこられま……」

 そこまで言いかけ、万千湖は気づく。

「引っ越すんでしたね、我々。
 山の中に」

 あのモデルハウスを駿佑が祖父から譲り受けた山の土地に建てる予定だからだ。

「まあ、街からそんなに離れてはいないが。
 今までのような訳にはいかないだろうな」

 二人は焼ける肉を見つめる。

 田舎暮らしもいいが、やはり、そういうところは不便だ。

「……タクシーで呑みに行けばいいですよね。
 帰るの同じ家だし」

 そこまでして呑みたいのか、と思いながら、駿佑は、
「そうだな」
と万千湖に合わせて相槌を打つ。