「今からてんてこまいでどうする。
家のことはまだこれからだぞ。
引っ越しのための作業もはじめないといけないだろうし」
土曜日、万千湖は車で迎えに来てくれた駿佑にそう叱られる。
「そうなんですけどね~。
いや~、なにを着ていったらいいのか迷っちゃって。
これ、おかしくないですか?」
万千湖は秋らしいシックなワンピースを着ていた。
薄手でちょっと寒いのだが、コートも羽織っているので、まあ大丈夫だ。
チラ、と駿佑はこちらを見て、
「……パティシエールの格好よりはいいんじゃないか?」
と言ってきた。
いや、あれで挨拶になど伺いませんよ……。
「うちの弟の友だちなら、あっちの方が喜んだかもしれないが」
そんな話をしているうちに、駿佑の実家に着いていた。
落ち着いた雰囲気の住宅街にある、白い大きなおうちだ。
万千湖が駿佑に連れられ、玄関を入ると、待ち構えていたらしき一家が勢揃いしていて、うわっ、と後退しそうになった。
「いらっしゃい、マチカさん」
駿佑そっくりの美しい母親が満面の笑みで挨拶してくれる。
万千湖です、課長のお母様……と思いながら、万千湖は深々と頭を下げた。
「初めまして。
白雪万千湖と申します。
課長にはいつもお世話になっております。
本日はよろしくお願いいたします」



