OL 万千湖さんのささやかなる野望

「よかったわ~。
 信じられないっ」

 夢のようだわっ、と親はこちらの話も聞かずに喜びはじめる。

「アイドルになるとかバカなこと言って。
 もうどうしようかと思ってたんだけど」

 いや、私、引っ張り出されただけなんですけど……。

 お母さんあなたも、
「ちょっとした賑やかしなんでしょ。
 出てあげなさいよ~。

 いつも世話になってるでしょ」

 って、イベントで出す豚汁よそいながら、言ってましたよね? と万千湖は思っていたが。

 親というのは自分の言ったことをすぐに忘れる生き物だ。

 すっかりそんなことは忘れ、勝手に心配して、勝手に安堵しているようだった。

 まあ、それも親心か、と万千湖が思ったとき、母が言った。

「あんたが普通にOLやるだなんて、絶対続かないと思ってたんだけど。
 就職して、見合いして、結婚とか。

 あんたもやっと人並みな人生を歩んでくれるのね~。

 もう~、大学卒業するときも、ご近所さんがみんな、うちの子やっと内定とれたとか言ってるときに。

 あんたは、ついに、どっかのフェスに出られるとかそんな報告しかしてこなくて」

 ……いやそれ、かなり大きなイベントだったんですよ。

 ユカちゃんとか、みんな、泣いて喜んでましたよ。

 あの黒岩さんだって、よくやった、ついにここまで来たな、と言ってくれたのに。

 親にとっては、そんなことより、就職の内定でも、もらってこいよっ、という感じだったようだ。