OL 万千湖さんのささやかなる野望




「それで、挙式はいつ頃なんですか?」

 家に入るとすぐやってきた営業の人と話しながら、広いキッチンを眺めていた万千湖は、ん? と振り返る。

 今、なにを訊かれたのかわからなかったからだ。

 『きょしき』ってなんだっけ?

 その単語、何処で区切っていいのかわからない、と思う。

 キョ シキ?

 ナニ(じん)だ……と思ったとき、駿佑が、その営業の人に、

「いえ、今回は彼女の実家を建て替えるので、その見学に来ただけなんです」
と説明していた。

「そうなんですか、ご実家を。
 二世帯にはされないんですか?」
と営業の男性は笑顔だ。

 ニセタイ。

 ニセの鯛が万千湖の頭に浮かんだ。

 何故か、足があって靴を履き、シルクハットをかぶった鯛だった。

 さっきのキョ シキの影響だ。

 ……いやいや。
 此処は住宅展示場だ。
 二世帯に決まってるよな。

 お兄ちゃんは一緒には住まないみたいだけどな、と思いながら、

「いいえ」
と笑顔で返す。

 微妙に噛み合わない話を続け、パンフレットをもらって家を出た。