OL 万千湖さんのささやかなる野望

 そのとき、
「サヤカさん」
と同じTシャツを着たメガネの男が呼びに来た。

「あっ、じゃあ、私、失礼しますねっ」

 万千湖は二人にペコペコ頭を下げて、その場を去った。

 慌てて一番奥の家に入ろうとしたが。

 駿佑は玄関前、幼児たちにパンチされている、ゆらゆら揺れるうさぎの起き上がり小法師(こぼし)の側に立っていた。

 駿佑の顔を見た瞬間、万千湖は、ホッとしていた。

 今、一瞬、遠ざかりかけた日常が帰ってきた気がして。

 万千湖は駿佑に微笑みかける。

「もうご覧になったんですか?」
「これからだ」

 ありがとうございます、と待っていてくれた駿佑に礼を言い、二人で家の中に入る。

 広い玄関ロビーに圧倒され、
「これ、家のほとんどが玄関じゃないですか?」
と言って万千湖は笑った。