OL 万千湖さんのささやかなる野望

「実は今のマンションに持ってきてるんですよね、昔の教科書とか。
 眠れない日に読むと一発ですからね」

「お前でも眠れないこととかあるのか」

「いやー、それが新しい職場なので慣れないことばかりで。
 毎日、ぐったりなので、ベッドに入って灯りを消したら、すぐ意識ないんですけどね」

 じゃあ、いらないじゃないか、教科書も安眠のハーブも……と思ったとき、万千湖が言った。

「そういえば、夫婦仲がよくなるハーブとかあったんですよ。
 仲直りできるハーブティーとか」

 でも、と万千湖は眉をひそめる。

「将来、役に立ちそうだなって思ったんですけど。

 今、まさに夫に殴り殺されそうなときに、ちょっと待ってってハーブティー淹れられますかね?」

 ……それ以前に、お前は、夫に殴り殺されるような、なにをするつもりなんだ、と思いながら聞いていた。