今日も忙しい一日が過ぎようとしていた。

小田武志27歳、独身。

モデルの母と、カメラマンの父を持つ彼は、子供の頃から学業優秀で、芸術的センスに恵まれていた。

高校卒業後は、パリの大学へ就学し、デザイナーの道を選び、この歳で一流スターの衣装も手掛ける程の成功を修めていた。

明日のショウを前に、今日はスタッフと最後のチェックを終え、遅い帰宅の途中であった。

自宅マンションの前にある公園に差し掛かった時である。

急に、風が一つ吹いた。

すると、彼の目の前に一枚の花びらが、ゆっくりと舞い降りて来たのである。

ふと気になって拾い上げてみると、それは、少し変わった形をしていたが、薄桃色の桜であった。


『へ~。もうそんな季節か・・・。』

武志は、桜を見るたびに、中学の頃、先生が話してくれた話を思い出すのである。

『あれ?おかしいな・・・』

武志は、周りを見渡した。

公園には、確かに桜の木はあるのだが、まだ花は咲いていなかったのである。

暫く立ち止まったまま、キョロキョロしていたが、

(どこかの早咲きの桜が、風に舞って飛んで来たのだろう。)

そう考えた。

その花びらは、何とも言えなず懐かしくて優しい香りがした。

武志は、花びらを携帯カバーのポケットにしまい込み、玄関へと入って行った。

~武志の部屋~

部屋に入り、パソコンをつける。

仕事関係のメールがたんまりと届いていた。

『おいおい、かんべんしてくれよ。』

見ていたら朝までかかる。

独り言をつぶやきながら、留守電の再生ボタンを押して、冷蔵庫へ向かう。

丁度、ビールを片手に戻って来た時、懐かしい名前が聞こえた。

『武、オレだ、秀樹だ。覚えてるか?メール送ったから見といてくれ。じゃあな。』

中学の同級生、山城秀樹であった。

とりあえずは、メールに向かわざるをえなくなったのである。

溜まったメールの中から、やっとそれらしいものを見つけた。

「桜木中学のみなさんへ」

というタイトルを開いてみると、それは、同窓会の案内であった。

「桜木中学、第22期生の皆さん。お元気ですか。約束の日が近づいて参りましたので、ここにご案内いたします。」

(約束の日?・・・あっ!そう言えば・・・)

武志は、中学の頃を思い出していた・・・。