〜XYZ〜

「七海…おまえサツに追われてるのか?」

無言は、肯定と判断した今井。
七海が、向かい合った今井を手招きする。
耳を寄せる今井。

「…店長、…あれ…やりたい」

あの体感型シューティングゲームを指さす。

「大丈夫か…?」
1年前の事が、今井の頭をよぎる。

ゆっくりうなずく七海。
かつての笑顔はなく無表情のまま。

(これがあの七海か?)

明らかに数日前とは異質なモノを感じた。
が、両親を失ったショックと理解した今井。

「いいよ、好きなだけやりな、少し出てくる」

七海が今井を見る。

(なんて目ぇしてやがる)

「心配すんな、着替えと食いもんを買って来るだけだ。それから…あれだ、行くとこなきゃ、今夜も泊まってけ」

そう言って、ゲームのパスキーを渡した。



〜捜査本部〜

15:30

集まった人数は、主だった10人ほど。

「そんな顔をするな。他の者は、七海の捜索中だ。居場所でも見つけたか?今更なんの会議だ」

苛立ちを隠さない三上。
富士本の招集のため、仕方なく従ったもの。

「昴!」気にも留めず咲が促す。

モニターにあの部屋が映る。

「な…何だこれは?」

「笹原の自宅の地下に隠し部屋があったのよ。複数の血痕もあることから、やっぱり妻の千佳は、DVにあっていたと考えて間違いないわ」

三上が、自宅担当班を睨む。

「それが分かったとして、二人共死んだ今、どうなるものでもないだろう」

「確かにね。でもね、私達はこの後、信雄の前の自宅も調べたの。事故物件の風評からか、まだ空き家だったから楽だったわ。そしてこれ」

昴が次の写真を映す。

「まさか…」

同じ様な赤い部屋であった。

そこで、咲が三上に向いた。
その瞳は真剣そのものである。

「三上さん。あなたは気付いていたはず」

「な!…なんのことだ?」
三上が咄嗟に眼鏡に手をやり、聞き返す。

「今回の事件で謎だった、千佳のジム通いは、夫から身を守るため、で間違い無し」

「あっ…そう言えば、信雄も時々顔や腕などに傷やアザがあり、チンピラと喧嘩したとか、転んだとか言い訳してましたが、部下達は夫婦喧嘩だと思っていた、と話してました」

会社の捜査担当が告げる。

「千佳が無抵抗となった信雄を刺したのも、DVの恨みと考えれば、納得できるわ」

その写真が映る。
今回の異常さが、再び甦る。

「でもまだ分かってないことがあるのよね」

昴が別の二枚の写真を映す。

「一つは、なぜ七海が血だらけだったか?、もう一つは、なぜ草彅慎吾が死んだか?、それから、どうして七海が拳銃を持って逃げたか?」

少しの沈黙。

「し…慎吾の死は、関係はないだろう」

たまりかねて三上が言う。

「あの場所で、同じ事故で死んだのよ?」

「シンクロニシティ…」

ゆっくりした口調で、昴が呟やいた。