「チッ!ついてねぇ」

パチンコ店から出てきた倉田剛(つよし)が、雨に文句を吐きながら、走る。

バシャバシャと大きな水飛沫が上がる。

「うわぁ💦おいっ!」

周りの迷惑など気にはしない。

少しでも濡れまいと、道の左の端を建物に沿って走っていた。

その時、ビルから出てきた信雄と激しくぶつかり、水の溜まった路面に派手に転ぶ倉田。


「だ、大丈夫か、君?」

「って〜な!どこ見てやがんだ、おらぁ❗️」

「ガンッ!」

手を差し出し、前のめりの信雄の顔面を、倉田の固い拳が弾き飛ばす。

「ぅがッ!」

壁に手を突木、うつ向いた信雄の口から、血と折れた歯が水面に落ちる。

背後で倉田が立ち上がる。
その気配に振り向く信雄。

その胸元を掴み、引っ張り、ボディへ膝蹴りをいれる。

「グッ…」

痛みに力が抜けた体を、路面に投げ転がす。
溜まった水が、大きな飛沫を上げる。



〜XYZ〜

ゲームは、プレイしない七海のせいで、直ぐに終了し、ドアが開く。

「七海ぃ〜どうしちゃったのよ、もう」

沙織のボヤきは聞かずに飛び出す。
ゲーム機の外で待っていた慎吾とぶつかる。

「いてっ!な、七海どうしたんだ?」

「お願い、どいて!」

「落ち着け七海」

出て行こうとする手を握って引き止める。
外は雷雨。溢れた水が、入り口から入り込み始めていた。

「どいて❗️」

「バシっ!」

七海の平手が慎吾の頬を叩く。
たまらず手を離す。

自動ドアをこじ開けて、七海が走り出る。
左斜め前にバスがいた。

「ダメ、止まって!」

叫びながら走る七海の前方で、信雄が転がる。
その信雄の顔は、駅の方を向いていた。

「バカ!止まれ❗️」

信雄を見た夕海が、一心不乱に走る。
歩行者信号はまだ赤であった。

「ギギーッ!」

バスが急ブレーキをかける。
大きな水の壁が、夕海を飲み込む。

その水の波を、追い越し車線から来た、白い車が…貫いた。

「バンッ!」「キャーッ!」

信号待ちの女性が悲鳴を上げる。

スポーツカーが止まり、窓を開けて転がって動かない「それ」を見た。

慌てて急発進したタイヤが、水飛沫を上げて空回りし、そのまま走り去って行く。

倉田もそれに気がつき、その場を走り去る。


七海は、その全てを見ていた。
激しい雨の中に立ち尽くす。

七海の体は…怒りに震えていた。