「シンガポールは治安がいい国と言われていますが、治安が悪いところもあります。何かあったらと思うと不安なので、僕の家に泊まってください」

そう強く言われて断れなかったんだけど、私は目の前に現れたリシさんの家に口を金魚のようにパクパクとさせることしかできない。

国土がそれほど広くないシンガポールでは、マンションなどに住む人の方が多い。でもリシさんは社長という肩書きを持っているからか、目の前にあるのは噴水のある大きな庭のついた大豪邸が建っている。

「さあ、どうぞ」

リシさんはにこやかに笑って言うが、私は緊張してダラダラと冷や汗が出てくる。

「リシさん、私、こんな豪邸に泊まらせていただいていいんですか?もう高級ホテルと何ら変わらないですよ」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ゆっくりくつろいでください」

リシさんに手を引かれ、豪邸の中に入っていく。豪邸に一歩足を踏み入れれば、豪華な調度品とたくさんの使用人さんが出迎えてくれて、今まで疲れなんて感じてなかったのに、一気に疲れが押し寄せてくる。