「ありがとうございました」

 ひとまずお礼を述べてから、グイッと膝に手をつき立ち上がる。
 ズキン。
 ああやっぱり頭が痛い。早く帰って寝よう。

「送ります」

「いえ、すぐそこ駅なんで」

「でも、ホント、顔色悪いですよ。車呼んだんで」

 シツコイ。てか、車って何。
 と思ったけど、本気で心配してくれてる様子が見て取れたから、なんと断ろうか困る。
 ズキン。
 ああヤダヤダ。今、そういうことで煩わされたくない。
 とそこで、男性のスーツの胸元に私が付けただろうシミの痕を発見。
 ああ、やっちゃった。更に頭が痛くなる。

「ごめんなさい」

 と謝ると男性は何故か寂しそうな顔になる。

「ああ、いえ、そうじゃなくて」

 いや、送ってもらうのは本当に要らない。でも、今言ったごめんなさいそういう意味じゃなくて。
 男性は「え?」と首を傾げる。
 背も高いし、優しそうに整った綺麗な顔と身体をしてる。いかにも人が良さそう育ちが良さそうで、着ているスーツも高級感漂ってる。だからと言っておぼっちゃま然とはしていなくて、何というか理知的で仕事できそうな雰囲気が漂っている。
 そんな人がこの年でこうも素直に感情を顔に出すのが不思議だった。

「これ」

 と、私が付けただろう化粧の痕を指差す。

「ごめんなさい。ぶつかった時に私が付けたんだと思います」

「ああ、そんなのお互い様なので気にすることないですよ」

 男性はなんとも爽やかな笑顔を見せる。
 その時、やたらと高級な車がスーッと歩道の横に静かに止まった。と思ったらバタンとドアの開く音がして運転手が下りてきた。

「社長。お待たせしました」

「ごめんね。呼び付けて」

「いえ。いつでもお呼びください」

 ん?

「車、乗ってください。私はこの後用事があって送っていけないのだけど彼に家まで送ってもらうから。プロの運転手さんだし安心して任せて大丈夫」

 やたらと爽やかな笑顔と突然やって来たピカピカに磨かれた高級車に正直引く。