若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする

「……え、なに?」

 僕の大声にもさして驚いた様子もなく、響子さんは眠そうな声で返事をした。

「本当はここにこのままいたいんだけど、仕事に行かなきゃ」

「……仕事?」

「鍵閉めないと不用心だから。ごめんね、せっかく寝たところ申し訳ないけど、玄関の鍵閉めに来てくれる?」

 このまま寝かせてあげたい。
 そのために一緒に部屋に入ったのに。大失敗。

「……鍵」

 とにかく、本当に申し訳ないけど、一度起きて玄関まで来てもらわないと。
 だけど、響子さんはもう半分夢の中。

「うわ、しまったなー」

 どうしようか迷っていると、響子さんがぽつりと言った。

「……鍵、持ってって」

「は?」

「閉めてって」

 響子さんの目はもうしっかりと閉じられている。
 もそもそとささやくような声はうっかりすると聞き逃しそうな程だった。

「え、響子さん?」

「貸して……あげる」

 貸してくれるって……鍵?

「響子さん、えっと、僕が鍵を借りてって、それで鍵閉めて行けば良いってこと?」

 だけど、響子さんはもうそれきり応えてくれなかった。
 心地よさそうな寝息が静かな部屋に響く。

 ……響子さん、信用してくれるのは嬉しいんだけど、さすがに不用心すぎないでしょうか?

 すやすや眠る響子さんはとても可愛くて、ずっと見ていたくなる。
 何なら、このまま響子さんのベッドに潜り込んで、響子さんを抱きしめて眠りたい。
 気がついたら、ベッドサイドに座り込んで響子さんのサラサラの髪の毛をもてあそんでいた。
 我に返って時計に目をやると、間もなくタイムリミットという時間だった。

「響子さん、夕方、また来ますね。それまで鍵、借りますよ?」

 本当に良いんですよね?
 心の中でそう問いかけながら、ポケットから手帳を出して一枚破ってメモを残す。
 帰り際、響子さんの額にそっとキスを落とした。
 名残惜しくて、何度も響子さんの方を振り返りながら、僕は部屋を後にした。