「それでは、本日も一日、よろしくお願いします。」


滝がいつもと同じ言葉で、朝礼を締めると、店舗開発室の日常がスタートする。


新店舗契約が締結されると、実際の店舗立ち上げは、販売装備、備品の手配、配置を担当する資材部と実際に販売する商品の手配、陳列を受け持つ商品部の手に委ねられ、店舗開発室の営業担当は、新たな新店舗候補地を求めて、動き回る日々が始める。


もっとも


「今度決まった新店舗は、商品部も資材部も今まで準備して来なかった形態だから、友紀にもいろいろ知恵を貸して欲しいって。」


店舗開発室の中で、彼らとの連絡を担当している葉那がそんなことを友紀に言って来る。


「商品部も勝手がわからなくて、困ってるんだろう。いきなり難題を押し付けられて、友紀ちゃんに責任とれって言いたいんだろ。」


笑いながら言う青木に


「無理難題押し付けたなんて、青木さん、人聞きの悪いこと言わないで下さい。」 


友紀はさすがに色をなし


「そうだ。そんなのを難題と思っているようじゃ、商品部も勉強が足りない証拠だ。」


と珍しく、滝も彼らの会話に口を挟んで来る。


「それはそうかもしれません。」


軽口が思わぬ展開になり、青木は首をすくめる。


「だが、杉浦が今回の新ショップの生みの親であることは確かだ。商品部が助けてくれと言ってるんなら、そうしてやれ。」


「わかりました。」


友紀が頷いたのを見て、滝はデスクの上の書類に視線を戻す。


あれから、あの1週間ほどの間がウソのように、滝はまた、誰より遅くまで、オフィスに残ることが多くなった。


そして相変わらず、書類とにらめっこしながら、納得出来ないことがあれば、すぐに担当者に確認し、また必要とあらば、脱兎のごとく、オフィスを飛び出して行く。


「全く滝くんに任せておけば、何の心配もないね。」


室長の村田はそう言って左うちわ。いい部下を持って、ご満悦の様子で、室員たちを呆れさせているが、当の滝は意に介する様子もない。


(まさしく、仕事の鬼だね・・・。)


友紀は感嘆半分、呆れ半分で、滝を見ていた。だが、そんな彼の様子で、以前とは違うことが1つだけ、ある。


(週に1回は、ビックリするくらいの早帰りをするようになった。きっと、紀藤さんと会っているんだろうな・・・。)


そんな詮ないことを考えてしまう友紀は、自分の告白など、今や完全になかったことにされてしまっていることに、思わずため息が出る。


(仕事しよ・・・。)


友紀は心の中で呟くと、パソコンに向かった。