「ウチの寝具は、老舗のメーカーさんに比べて、女性、特に20代から40代の若い層からのご支持をいただいています。それを活かして、ああいうモールに出店して行くことは、本当はもっと積極的に考えるべきだったんです。ですが、総合コーディネートにこだわるあまり、私たちはフルスペック出店にばかり目を向け、逆に寝具の販売はお取引先である販売店さんにお任せすればいい。そう思い込んでいたんです。」


「第3の道・・・か。」


そう呟いた滝に


「そうです。今回の出店が実現出来れば、ウチの会社にとって、新たなビジネスモデルになり得ると私は思います。ですから、是が非でも今回は1Fに、あの場所に出店すべきです。」


まっすぐに彼を見て、友紀は訴えた。


(いい顔をしている、いや素敵な顔だ・・・。)


そんな彼女の表情に思わず見惚れてしまった滝は、慌ててその思いを振り払うように顔を左右に振ると


「よくわかった。」


そう言って、友紀に笑みを向けた。


「本人にそのつもりがあったがどうかはともかく、結果として、明奈・・・いや紀藤さんが俺たちが進むべき新たな道を示してくれたことになるな。」


「次長・・・。」


複雑な表情になる友紀に構わず


「明日、朝一で室長に報告する。そこはまぁ問題なく、クリア出来るだろう。次は営業本部でのプレゼンだ。杉浦、お前がやるんだ。いいな。」


「・・・はい。」


友紀は緊張の面持ちで頷いた。


実際、数日後に営業本部で行われた本部長以下のお偉方がズラリと並ぶ前でのプレゼンは、友紀にとっては、経験のないくらいのプレッシャーだったが、横に滝が居てくれるのが心の支えになったし、何より滝の承認を得ていることで


(絶対に・・・大丈夫。)


と自分に自信を持つことも出来た。


そして、実際にその通りとなり


「ご苦労さん、よくやったな。」


全てが終わり、滝が暖かな笑みと共にそう言ってくれた時


「はい、ありがとうございます。」


答えた友紀はホッとしたように笑顔を浮かべる。


「今日は・・・ゆっくり休め。」


そう言って離れて行った滝が、実は自分を抱きしめてやりたいという衝動を必死に抑えていたことに、友紀は気づくはずもなかった。