漆原に手伝ってもらい、資料を完成させた友紀は、夕方、改めて人影もまばらになったオフィスで、滝のデスクの前に立った。


「よろしくお願いします。」


友紀が差し出した資料を受け取った滝は真剣な表情で目を通し始める。そして読み進めるうちに、ひとつの言葉に目が止まった。


「差別化・・・。」


その滝のつぶやきを、友紀は聞き逃さなかった。


「そうです。差別化と言えば、普通同業他社との関係で使う言葉ですが、今、会社に必要なのは、自社内での差別化だと思います。」


そう言って、まっすぐ自分を見る友紀に


「聞こう。」


滝は先を促す。


「ウチの会社は元々は寝具メーカーです。自社の商品を百貨店さんや総合スーパー、ホームセンターさんに卸して販売していただく。それが現在もメインの業務です。」


「そうだな。」


「しかし、会社が現在目指しているのは、生活の総合コーディネート。そのコンセプトのもとに、インテリア、家具の分野に進出しました。ですが、残念ながら寝具ほどの認知と評価をいただくには至っておらず、扱っていただいている販売店さんは寝具に比べたら、遥かに少ない。」


「寝具に比べて、インテリア、家具は利益が取りにくく、販売スペースも必要だからな。」


「そこで私たちは自力でのコーディネート販売に力を入れる為に、自前の販売店の拡大に力を入れている。現在、私たちが担っている業務がまさしく、それです。」


友紀の言葉に、滝は頷いた。


「調べてみました。過去に出店した自営店、現在交渉が進められている出店候補地、全てフルスペックに対応した物件です。例外は1つもありません。」


「うん。」


「会社の方針がそうだから、当たり前と言えば当たり前ですが。ですから、今回のお話も、私たちは上層階でのフルスペック出店だと思い込んでいました。最初から1Fでの寝具専門ショップとしてのお話だとわかっていたら、即お断りをしていたのではないでしょうか?」 


「恐らくな。」


「実際に紀藤さんからお話を伺った時は、私も困惑しました。でも、私はこの話を断ってはいけないと、とっさに思ったんです。」


「なぜ?」


「それは・・・正直、直感としか言いようがありません。」


困ったような表情で答える友紀に、一瞬笑みを浮かべた滝は、しかしすぐに表情を戻すと


「続けてくれ。」


と促す。