オフィスに戻った友紀は、自分を落ち着かせる為にコーヒ-を口に運んだ。そして改めて


『なぜ、明奈からの依頼を、お前が受けるべきだと思ったのか。もう1度、考えてみろ。』


という滝の言葉を思い起こしてみた。


(私は今回の話を上層階へのフルスペック出店と信じて疑わなかった。だから、紀藤さんから1Fへの出店を提示された時、かなり驚いた。紀藤さんはこの話を壊したいんじゃないかと疑心暗鬼にも陥った。でも、もともと自分から持ち掛けた話を自分で壊して、あの人に何のメリットがあるのかな?と思い直した・・・。)


友紀は当時の心境を思い出す。


(そして、帰社する頃には、この話は絶対に受けるべきだと思うようになっていた。その理由は・・・。)


滝にも言ったように、万一自社が断って、同業他社に入られてしまった場合、かなりの痛手になりかねないこと。


そして、事前調査で30代から50代の女性が来店客のメイン層になると見込まれることがわかっていた為、彼女たちのニーズに答えうる自社の商品は、絶対にマッチするはずという確信があったからだ。


(インテリア、家具を扱うことによって、かえって焦点がボケてしまう恐れがある。商品部は、「いわゆる専門ショップは、最初のうちはいいかもしれないけど、いずれ行き詰る」なんて言ってるみたいだけど、それは商圏、客層によっても違って来るはずだし、接客とかで差別化を図れば、リピ-タ-は必ず作れる、はず。)


と考えを進めて来た友紀は


(差別化・・・?)


その自分の言葉に、ハッとした。


(そうだよ、差別化なんだよ、これは。)


目の前の霧が、突然晴れたような気がして、友紀は表情を明るくする。ふっと横を見ると、心配そうにこちらを見ている漆原と目が合う。


「漆原くん、ちょっといい?」


友紀はそんな相棒を呼び寄せると


「はい。」


友紀が落ち着きを取り戻しているのに、とりあえずホッとしながら、漆原は友紀の席に向かう。


「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけどな。」


「なんなりと。」


「そんな難しいことじゃないよ。なんとか今日中にもう1度、次長とお話したいんだ。」


「わかりました、で、何を?」


やや緊張気味の後輩に、友紀は自分の意図を伝えた。