目についた空き会議室に飛び込んで、大きく肩を揺らしながら、友紀は


(やっちゃった・・・。)


昨晩目撃してしまった滝と明奈の逢瀬に動揺し、納得できず、不安定になってしまっていた感情を爆発させてしまった。社会人として、ビジネスマンとして全くあるまじき言動だったと、ついさっきの自分を後悔していた。


(だいたい私は、何に対して腹を立ててたの?滝次長と紀藤さんがどうしようと、どうなろうと、私が口を出したり、まして嫉妬する筋合いじゃないじゃない・・・。)


その思いが浮かんで来て、友紀はギュッと唇を噛み締める。


(そう、いくら私が想っても、この想いは次長には届かない、受け入れてもらえない以上、どうしようもないこと・・・。)


懸命に自分に言い聞かせて、オフィスに戻ろうと、身体を反転させた友紀の呼吸が一瞬止まる。そこに滝の姿を見たからだ。


「次長・・・。」


そう呼び掛けて、友紀は滝を見つめる。そして滝も友紀に静かに視線を送る。


「先ほどは・・・申し訳ございませんでした。」


やがて、友紀が深々と頭を下げる。


「なんかお前には、いろいろ目撃されるな。」


すると、そんな言葉が振って来て、友紀が頭を上げると、滝は温和な表情で彼女を見ていた。


「明奈とはここのところ、連日会っているのは確かだ。そして、もう少し時間をくれるように話は付けた。」


「・・・。」


「彼女が最初にこの話をウチに持ち掛けて来た時は、俺と再会することになるとは夢にも思ってなかったそうだ。だから、スタートの時点では、俺と明奈の過去はプラスにもマイナスにも作用していない。」


「・・・。」


「明奈が最初から、ウチにあのスペ-スで出店してもらいたいと考えていたかどうかは、正直わからん。あるいは何らかの意図があって、難題をぶつけてきたのかもしれない。だが、その難題をお前は受けるべきだと、はっきり俺に言った。あの時点では、キチンとした利益シュミレ-ションなど出来てなかったにも関わらずだ。」


その滝の言葉に、ハッとした表情になる友紀。


「だから・・・もう1度、よく考えてみろ。」


「・・・わかりました。」


頷いた友紀を見て、ふっと微笑を浮かべた滝は、すぐに背を向けて、部屋を出て行く。


(わかりました、考えます。)


心の中で、滝にもう1度そう答えて、友紀も会議室を後にした。