次の日、朝礼が終わり、友紀は漆原と共に滝のデスクの前に立った。


「まとまったか?」


「はい。」


「じゃ、向こうで話そう。」


そう言うと滝は立ち上がった。2人を伴い、面談室に入った滝は


「説明を聞こうか。」


と友紀を促した。


「では、ご説明します。」


友紀は資料をもとに話し始める。あくまで上層部への説明の為の資料なので、今回の出店の経緯から、既に滝は承知していることも含めて、友紀の説明は続いて行く。


やがて彼女の話は、肝である出店形態に進んで行き、現在の会社の方針と異なるショップ方式の出店を選択する理由として、モール側からの要望があったことと、大規模展開よりショップ方式の方が、黒字化の早期実現が見込まれるという2点があげられ、ここで友紀の説明は終了した。途端に滝の表情が険しくなる。


「杉浦、昨日の俺の話を聞いていなかったのか?」


「いえ。しかし、申し訳ございませんが、私には早期黒字化を実現する以上のメリットを見出すことが出来ませんでしたので。それに少しでも早く社内手続きを進めないと、競合他社に出し抜かれる危険性があるのは、次長もご存じと思います。」


友紀のいつになく固い表情と厳しい口調に、隣の漆原が思わず、彼女を窺う。


「通る見込みもないプレゼンをしても意味がない、それこそ時間の無駄だ。もう1度、考え直せ。」


そう言って、立ち上がろうとする滝に


「ですが・・・。」


食い下がる友紀。


「三友コーポレ-ションだって、あと数日の猶予も出来ないほど、焦ってはいまい。だから・・・。」


「1週間の猶予を下さいと私がお願いした時に、それでは遅いっておっしゃったのは次長のはずです。」


「杉浦・・・。」


友紀の様子が、普段と異なることに、滝も気付く。そんな滝の顔を真っすぐ見ながら


「それとも紀藤さんと直接お会いになられて、なにか約束を取り付けることが出来たということですか?」


言い放つように友紀は言う。息を呑んだように、言葉を失う滝に


「だったら、私はもう必要ないじゃありませんか。後は次長が昔のよしみで、彼女と話を進められた方が、よっぽど話がスム-ズに進むと思います。」


一気に言った友紀は


「失礼します。」


と言うや、立ち上がって、部屋を飛び出した。


「ちょ、ちょっと先輩!」


驚いて呼び止める漆原の声に、振り向きもしない友紀の後ろ姿を、滝は黙って見送るしかなかった。