その日、外出から戻った友紀が


「次長は?」


漆原に尋ねると


「今日はもうお帰りになりました。」


との返事。


「えっ、今日も?」


友紀が驚くのも無理はない。あの残業魔だった滝が、これで3日連続でほぼ定時上がりを続けている。


上層部へのプレゼンの準備に追われる友紀だが、彼女の仕事は、当然それだけではない。この日は、準備を漆原に託して、他の取引先への外回りでほぼ1日を費やした。


「どう、漆原くん?」


気を取り直して、進捗状況を尋ねると


「はい。1Fに出店した場合と3Fに出店した場合の営業成績のシュミレ-ションは終わりました。3Fに出店すれば、当然売り上げは比較にならないくらい取れますが、営業効率、利益はむしろ1Fの方が取れる、そんな見込みが立ちました。」


漆原は答える。


「やっぱり・・・。」


そうだったか・・・友紀は我が意を得たりとばかりの声を出す。


「あのモールの商圏の客層は30代から50代のファミリ-層がメインだから。その層の特に女性は、睡眠の質に対する関心が高く、また悩みを多く抱えているというデ-タがある。布団のような重寝具やインテリア家具は、確かに売上額は取れるけど、利益が取れるのはむしろ枕やシーツを含めたカバ-類だからね。そういう客層のモールの1Fにオーダ-枕を含めた接客のしっかりしたショップを出せれば、これは絶対に有望だよ。」


明るい声で友紀は言うが


「横からごめんね。商品部と連絡を取ってる立場から言わせてもらうと、彼らはあくまで寝具からインテリアまでの総合コ-ディネ-トで売って行くことの方が、リピ-タ-の獲得につながるという考えなのよ。」


葉那が口を挟む。


「両先輩のお話は、僕にはどちらももっともに聞こえます。ここは、やはり次長のご判断やご指示を仰ぎたいところですが、こんな時に限って、早上がりですからね。」


漆原が空いている滝の席に目をやりながら言う。


「それはそうだけど、次長だって仕事仕事ばかりじゃ、息が詰まるよ。明日は私も1日内勤だし、まずは朝一で次長に報告しよう。さ、準備を進めよう。」


友紀はそう言って、席についた。