今回の騒動のきっかけを作った形になった美和。彼女は、明奈に何度も不倫を止めるように忠告したが、一向に聞き入れられず、思い余って、雅也に話したのだと、告げた後


「あの子はたぶん、あなたに知らせたのが私だって気が付いてる。でも恨み言1つ言わずに、雅也に会いたいの、力を貸してって泣き付いて来て。それで、こうしてやって来た。」


と続けた。


「明奈は許されないことをした、雅也が怒るのは当然だと思う。でもさ、盗人にも三分の理じゃないけど、あの子がこんなことを仕出かしたのには、彼女なりの理由なり理屈があると思うんだよね。」


「・・・。」


「それを聞いてやってあげられないかな?」


「聞いてどうするんだよ。」


雅也は反撥する。


「俺はこれでも明奈を大事にして、精一杯愛して来たつもりだ。でも彼女には届かなかった、不足だったんだ。他の男に走ったって、そう言う事だよな。これは俺が所詮、明奈には釣り合わない、ふさわしくない男だったからだ。その事実を改めて、明奈から突き付けられるなんて、俺には耐えられないよ。」


「雅也・・・。」


「それに村雨、俺は明奈に会って、愛する人を、これ以上嫌いになるのは、やっぱり嫌なんだ。だから・・・会いたくない、会えないんだ。明奈にそう伝えてくれ。」


訴えるように言う雅也の顔を、美和はじっと見つめていたが


「雅也らしいこと言うね。」


と言いながら、フッと1つ息を吐く。


「これ以上、明奈を嫌いになりたくない。今更、こんなこと言ってくれる人を、なんであの子は裏切ったんだろうね。私にはわからないよ。わかった、この言葉は確かに明奈に伝えるよ。でも最後に1つだけ。」


「うん?」


「例え、どんなに悪いことをした人だとしても、謝罪の機会すら与えてもらえないっていうのは、やっぱり残酷な仕打ちだと思うんだ。それが明奈に対するあなたの復讐なのかもしれないけど、出来たら、それだけはもう1度考えてやってくれないかな。」


「村雨・・・。」


「じゃ、帰るね。今日はありがとう。」


去って行く美和を見送りながら、雅也はじっと、彼女の最後の言葉を考えていた。結局


「自分の気持ちは、絶対にもう変わらない。それでもよければ、最後に1度会おう。」


というメッセ-ジを弁護士を通じて、明奈に送ったのは、その翌日のことだった。