真実を知った今、自分が為すべきことは何か?悩んだ末、雅也が選んだのは、明奈の心を取り戻すことだった。彼女の裏切りは辛い現実だったが、それでも雅也は明奈を愛していた。


(俺の愛情が足りなかったんだ。明奈が本当に大変な時に、俺がもっと彼女に寄り添い、サポ-トしなきゃいけなかったんだ。)


雅也は改めて、妻に寄り添い、積極的に声を掛けた。身体は辛くないか?そんなに頑張んなくてもいいんだぞ。俺に出来ることがあったらなんでも言って欲しいし、忙しいのはわかるけど、もっと2人の時間を大切にしよう。


雅也は懸命に妻に訴えた。その言葉に明奈は


「ありがとう。」
「私も雅也ともっと一緒にいたい。」
「忙しさももうすぐ峠を越えるから、そしたら一緒にいろんな所に行こう。」


と笑顔で答えてはいたが、実際には彼女の行動は変わらず、それどころかむしろ、連絡もよこさずに遅くなったり、せっかく用意した夕飯も


「ゴメン、食べて来ちゃった。」


と口にすらしようとしないことが増えて来た。深まる絶望の中、雅也は最後の賭けに出た。


ある朝、出勤前の慌ただしい時間の中、雅也は明奈に告げた。


「今度の金曜日、レストラン予約したから。」


「えっ?」


唐突な雅也の言葉に、明奈は驚いたように彼の顔を見る。


「どうしたの、急に?」


と尋ねた明奈の言葉に、雅也は一瞬、表情を強張らせたが、すぐに


「なかなか最近は、2人でゆっくり食事に行く機会もなかったから。久しぶりにどうかと思って。」


と笑顔で告げた。


「そっか、そうだね。私がずっと忙しかったからね。うん、わかった。まだちょっとわからないけど、その日はちゃんと帰れるように頑張るよ。」


明奈も笑顔で答えたが、その表情に戸惑いが混ざっているのを、雅也は見逃さなかった。


そして当日、その日の勤務を終え、雅也が会社を出たのを見計らったかのように、明奈から電話が入った。


「ああ、今終わったとこ。これから現地に向かうよ。」


と告げた雅也に


『雅也、実は・・・。』


申し訳なさそうな明奈の声が聞こえて来る。


『やっぱりどうしても、今日も残業になっちゃって・・・。せっかく雅也が準備してくれて、楽しみにしてたんだけど・・・本当にごめんなさい。』


「・・・。」


『こんなドタキャン、酷いよね。でも、どうしようもなくて・・・。この埋め合わせは必ずするから。キャンセル料も当然かかっちゃうだろうから、それは私が・・・。』


「もういいよ。」


懸命に言い募る明奈の言葉を、雅也は遮った。