1度湧き上がった疑問は、雅也の中で膨らむ一方となり、翌日から、雅也は妻の様子を改めて観察してみた。


毎晩のように帰りは遅く、夕飯を共にする機会も減った。家にいても、自分が話し掛けても、総じて生返事というか上の空。ゲームでもしているのか、それとも誰かと連絡を取っているのか、携帯は肌身離さず、土日も仕事と称して、家を空けることが増えて来た。


気が付けば、家事はほぼ100%、自分の担当になっており、新婚当時はそれこそ毎晩のようだった夫婦の営みも、レスにこそなっていなかったが、ひと月に1~2度あればいい方。


夫婦の時間なんて、週にどのくらいあるんだ・・・?その現実に気付いた雅也は愕然とした。妻は忙しいから仕方がない、そう思い込んでいる時には、気にもならなかったが、改めて、冷静に見てみれば、今までそんな妻に疑問も疑惑も抱かなかった自分がどうかしているとしか思えなかった。


思い悩む雅也に、その日も明奈から「今日も残業で遅くなる」とのLINEが入った。それを見た雅也は、意を決し、仕事を定時で切り上げると、脱兎のごとく、妻の会社に向かった。それが、無駄足になることを祈りながら。


だが、その祈りも虚しく、雅也が目にしたのは、今まさに、見知らぬ長身のイケメンに寄り添いながら、退社していく妻の姿だった。時計の針は18時になろうとしている頃だった。


2人はそのまま、当たり前のように寄り添って歩き、やがて近くのレストランに消えて行った。その親密さは誰の目にも明らかで、同僚たちの目を全く憚かろうともしないその様子に、雅也は愕然とするしかなかった。


このままあとを追い続けるか、それとも思い切って2人の会食の場に乗り込むか・・・しかし、雅也はそのどちらの道も選ぶことなく、悄然と肩を落とし、その場を後にした。


妻が帰宅したのは、まもなく日付が変わろうかという頃だった。その帰宅を、雅也はベッドの上で知った。あの後の妻の行動は容易に想像できる。さすがに今、明奈の顔を見ることは、雅也には出来なかった。