「杉浦。」


「はい。」


「明奈は」


滝はサラリと名前呼びした。驚きの表情を浮かべる友紀に構わず


「優秀なビジネスマンだ。ウチの会社のコンセプトを知らないで、この話を持ち掛けて来たとは、とても思えない。」


と言うと


「でも彼女が、本当にウチの味方だと思うか?」


真顔で尋ねて来る。一瞬、息を呑んだ友紀だが


「次長は紀藤さんが敵である可能性があると、思ってらっしゃるんですか?」


と問い返す。


「とぼけるな。お前だって、そう思ったからこそ、顔色を変えて戻って来たんだろうし、さっきの言葉も自信なさげだったんだろう。」


そう言って、滝はフッと笑みを見せる。


「紀藤さんは優秀なビジネスマン、今次長はそう言われました。」


「ああ。」


「紀藤さんのことをよくご存じな次長がそうおっしゃるなら、きっとそうなんでしょう。だとしたら、私情で動かれるようなことはなさらないと思います。」


と友紀は、言い切った。しばし、見つめあうようにお互いを見た2人。


「俺は、彼女を信用出来ない。」


やがて、滝ははっきり言った。


「でしょうね。」


友紀は答える。


「どうやら、その理由も知ってるようだな?」


「だいたいのことは。」


「誰から聞いたんだ?」


「自然に耳に入って来ました。すみません。」


友紀は頭を下げる。


「人の口に戸は立てられん、仕方ないことだ。」


そう言って、少し苦笑した滝は


「この前は、プライベ-トを仕事に持ち込まないなんて、カッコ付けたが、これは思いっきり私情だ。それを認めた上で聞く、お前は明奈を信用出来るのか?」


と尋ねる。


「私は、個人的感情を言わせていただければ、紀藤さんが嫌いです。自分の好きな人を傷付け、苦しめたあの人に、好意なんて抱けるはずがありません。」


「杉浦・・・。」


「だけど、仕事上、次長が仕方なく、私を信じてくださってるように、私も紀藤さんを信じます。それに・・・世の中に本当に悪い人はいない、その母の教えを、私は今も信じていますから。」


そう言って、微笑む友紀。その表情に吸い込まれるように滝は彼女を見つめる。


「3日・・・いえ2日でなんとかまとめます。お待ち下さい。」


そう言って、一礼して、友紀は離れて行く。


(杉浦・・・。)


その後ろ姿を、滝はただ見つめていた。