オフィスに戻った友紀が、厳しい表情のまま、明奈とのやり取りを報告すると、それに耳を傾ける滝の表情も険しくなる。


「難題を突き付けて来たな。」


明奈の顔を瞼の裏に思い浮かべながら、滝は呟くように言った。


「杉浦。」


「はい。」


「それで、担当者としてのお前の意見は?」


「あの案件は絶対に逃すべきではありません。例え今の会社のコンセプトを曲げてでも、必ず1Fに出店すべきです。」


滝の問いに、友紀は躊躇うことなく、答えた。


「3Fじゃダメか?確かに今、空いてるスペ-スを全部ウチで使ってくれと言われても困るが、そこは交渉次第で、なんとでもなるんじゃないか?」


「それはそうかもしれませんが、そうなるとウチが見送った1Fの一等地に、ライバル店が入ってしまう危険性があります。総合力で勝負できるのは利点ですが、肝心の主力商品である寝具での競争は不利になります、商品自体は他社に負けてないという自負はありますが、場所というファクタ-は軽視できないと思います。」


友紀の意見は、滝を頷かせるものがあった。


「そうか・・・だが、あの頭の固い室長を始めとした、上層部を納得させられるか?簡単な話じゃないぞ。」


「もちろん、漆原くんにも手伝ってもらって、資料は作ります。少し時間を下さい。」


「どのくらいで出来る?」


「1週間、いただければ。」


「遅いな、それじゃ。こっちの内部調整に手間取っているうちに、他社との話が進んでしまうかもしれない。」


「それは・・・。」


その危惧はある。


「紀藤さんは『私としては、リトゥリさんを上に推薦した手前もあるし、他の担当者に手柄を横取りされたくもない』とはおっしゃってました。三友さんにアプロ-チを掛けてる企業がどこかまでは、さすがに紀藤さんは教えて下さいませんでした。でも、なんとなく想像は出来ます。想像が間違っていないとしたら、あの場所に出店する寝具としてはウチの商品の方がフィットするはずです。それは恐らく紀藤さんはわかっているんだと思います。だから紀藤さんもある程度は、ウチの為に動いて下さる、とは思うのですが・・・。」


友紀は言ったが、その言葉は自信なさげだった。