「もしフルの展開がどうしてもご希望だとすると、御覧の通り、2Fでも現状、既に厳しいかもしれません。逆に3Fなら、かなりゆったり商品を展開していただけると思いますが。」


と続けた明奈に


「確かに、重い商品をメインで扱ってる弊社にとって、パーキングに近くなるというのはメリットではありますが、正直言えば、逆にこれだけのスペ-スは弊社だけでは使い切れないと思います・・・。」


友紀は思案顔になる。その顔を少し、明奈は見ていたが


「杉浦さん。」


と呼びかけた。


「はい。」


「こんなことは言っては何ですが、この件を担当してるのは当然私ひとりではありません。」


「承知しております。」


「実は他の担当者の方に、リトゥリさんの同業他社さんから売り込みが来てます。」


「えっ?」


友紀は驚くが、考えてみれば、こんな好立地条件の案件を、他社が黙って指をくわえて、眺めてるはずはないのは、当たり前のことだった。


「私としては、リトゥリさんを上に推薦した手前もありますし、他の担当者に手柄を横取りされたくもありません。」


「はい。」


「煽るつもりはありませんが、急がれた方がいいと思います。戻って雅也・・・失礼、滝次長にご相談されてはいかがですか?」


そう言って、明奈は艶然と微笑んだ。その表情に一瞬、表情が強張った友紀は、しかしすぐに表情を戻すと


「わかりました。至急、滝と相談して、ご連絡します。」


そう言うと立ち上がり


「今日はありがとうございました。失礼します」


と一礼すると、部屋を出た。その途端


(あの人、うっかり口を滑らせた態を装って、わざと次長を名前で呼んだ。私に聞かせるために、わざと・・・。)


ビジネスとは全く無縁の感情が、胸に湧き上がって来て、友紀の表情は険しくなる。


(負けない・・・絶対に。)


それはライバル企業に対する感情では、もちろんない。友紀は思わず、ギュッと唇を噛み締めた。